映画「正欲」の感想:とても良かったです
11/8公開の朝井リョウさん「正欲」の映画を見てまいりました。ネタバレになるかもなので注意⚠️。
恥ずかしながら朝井さんの作品を見るのは初めてだったんですが、「霧島、部活やめるってよ」「何者」など有名な作品が多数映画として今まで公開されてきました。
私が見ようと思ったのは、YouTubeのおすすめでたまたま予告編を見たから。新垣結衣さん演じる桐生夏月の「生きるために必死だった道のりをありえないって片付けられたことありますか?」というセリフに衝撃を受けました。自分の今までの経験に似たものがあって、強く心を揺さぶられました。俄然気になった私は公開初日に映画館に向かいました。誰かを誘えなくて一人で。
見た感想を端的に述べるなら「とても良かった」です。
勢いで小説買うぐらい。
普通って何だろう?
周囲の普通に馴染めない、そんなそれぞれの主人公達の気持ちが俳優さんたちの素晴らしい演技で流れ込んで来るようでした。作品的には重苦しくて社会的にマイノリティとされる人たちに対する無理解に胸が締め付けられる思いでした。東野絢香さん演じる八重子ほどひどくはないですが、自分も少し男性恐怖のようなものがあって(性対象は男性だと思います)40歳近くても交際経験がありません。自分の友人や親戚たちは”普通”に結婚して”普通”に子供がいて、年々話が噛み合わなくなっていって孤独・疎外感のようなものを感じています。自分は人間として欠陥があるのでは、よくそういうふうに考えます。新垣結衣さん演じる夏月の生活の中で同僚や同級生、親に”普通”を無意識に求められる場面に応えられない葛藤・自責の念が自分事のように苦しかったです。
映画で何度も「LGBTQに理解が広がっている」というニュースが流れるシーンがあり、それとは対象的に夏月の周囲を取り巻く環境は昭和の古い考えのままで何一つ変わらない状況でした。多様性ってなんのためにニュースで報道されているんだろう、誰のためなんだろうと考えます。何を分かった気でいたんだろう?分かることすら多分必要としてなくて彼らは「そっとしておいて欲しい」と言っていました。でも本当のところは繋がりに飢えている。
夏月と磯村勇斗さん演じる佳道が出会えたのは奇跡みたいな確率で少しは救いでした。お互いの色んなこと知らないことの方が多いと思うけど、一番の秘密を共有できたことで穏やかな表情になっていく2人が、少しは救われたようで良かったって思いました。二人の空間でだけ世間で言うマイノリティが逆転したような錯覚を覚えました。”普通”とされる事を「何それ変態みたい」と笑う2人が印象的でした。稲垣吾郎さん演じる啓喜の”普通”の家庭と、夏月と佳道の二人の関係が対比のようになっていて”普通”の家庭ってなんだろうって思いました。誰かを孤独にしてしまうなら”普通”が正しいわけじゃない。”普通”(=多数派)を振りかざして誰かを孤立させる世の中なら、日本の引きこもりや自殺者は増え続けるんでしょうね。
異物を嫌うのは原始から変わらない本能?
人間は古来より群れで生活していて、異物を排除するように本能でできてるみたいです。原始時代は子供のうちの半分が、農耕時代になっても全体の2割が同じ人間に殺されてきたと証拠付ける遺体が多数出土されているみたいです。農耕で食料が安定的に供給されているのに、死者の数は逆に増えていたというのが怖いですね。役立たずや群れの中での異物を排除するために、現代でも噂話でSNSで誰かを吊し上げることが日常的に起こっています。みんな不安だから。自分が吊し上げられないように、誰かを吊し上げることで安心したいんです。
現代の色んなものが豊かになった時代でもまだそんな事をして、”普通”じゃない人間を見つけ出そうとみんな噂話やゴシップに目がない。表面上は多様性を謳っても私たちはまだ原始人の頃から何も変わっていないかも知れないですね。
余談
この映画を見て思い出した漫画があるんです。
昔読んだ「レベルE」の中の話でオスがメスを食べることで繁殖する宇宙人の話。
物語の中でその宇宙人は自分たちの性欲・生殖行動を恥じていました。でも衝動を止めることができなくて「ぼくたちは生まれるべきではなかったかも知れない」「何で僕たちみたいな生き物がいるんだろう」と独白するシーン、殺してしまった後の表情が悲痛でした。
その話の最後に人間側の一人が「明日から寝るなと言われても俺は眠くなる」「食うなと言われても腹は減る」とモノローグで語っていて、非常に印象的でした。興味のある方は一読ください。
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